「きっかけのチカラ」は、おとなラグビーコミュニティーに関わる方へ向けて、ラグビーの魅力を発信するコラムです。
本日のゲストスピーカーは一般社団法人Joynt 代表、おとなラグビーコミュニティー発起人の喜連航平さん。
インタビューは三部構成でお届けします。
(前編)伝えたいのは「つながり」、(中編) キラキラ輝く大人の「一歩」、と連載しましたが、(後編) ラグビーで「輝く」 では、喜連さんご自身についてお聞きしました。
◼きっかけはマジック
ラグビーを始めたのは4歳の時。通っていた幼稚園で、園長先生の旦那さんがするマジックがみんなに人気で。マジックをしてくれた先生はラグビースクールのコーチだったので、そのマジックがどうしても見たくて、ラグビースクールに入ったのがラグビーを始めたきっかけです。今思えば、そのマジックにまんまと引っ掛かりました(笑)。ラグビーを始めたきっかけは“先生のマジックを見たい!”でしたが、気がつけばボールに触れること自体が楽しくて。
でもそれは僕だけじゃなくて、祐介(横浜キヤノンイーグルス 梶村選手。以下、祐介)や岡田(トヨタヴェルブリッツ 岡田選手)、剛(コベルコ神戸スティーラーズ 前田選手)も同じで。
祐介は同じ白ゆり幼稚園のチームも一緒でしたし、他2人は姉妹幼稚園でしたが、年長の卒園交流試合で対戦していて、小学校入学のタイミングで恩師が創った伊丹ラグビースクールにみんな入部してチームメイトになりました。他にも同期や先輩後輩にはトップで活躍した選手がいて、対戦した他スクールの選手にも今でもつながっている人が多くいます。今でも人とのつながりを生んでくれているのがラグビーです。
◼ラグビーは人生の教科書であり社会の縮図
ラグビーは人生の教科書であり社会の縮図です。一人ではできないことを、みんなで力を合わせてやる。そのためには個が頑張らないとチームは活性しない。その中にも勝敗があって、準備した作戦の遂行力と、変化する目の前の状況を素早く捉える対応力。その為には限られた時間で次の一歩を決定するリーダーシップも必要ですが、周りのフォロワーも必要なのがラグビー。友達の作り方もコミュニケーションの大切さもラグビーから教えてもらいました。
人数が15人と多く、コンタクトスポーツでもあるラグビーは、スポーツの中でも特に”テクニック”じゃなくて”スキル”が求められます。テクニックは”プレッシャーがない中で、できる成果”です。テクニックに対して、スキルは時間やコンタクトなどの圧力を感じる”プレッシャーのある中でテクニックを発揮できるか”です。
ラグビーにおけるスキルを“時間”で例えると、45秒と言う限られた時間を与えられたとして、自分たちのことや相手のことを直観視したり客観視したりして、内容を整理して端的に共有する必要があります。限られた時間のなかで多くの情報を端的にまとめ、チームとして判断や決断することが求められています。さらに、チームの場合はリーダーシップを取る人とフォロワーとして判断を委ねる人それぞれが必要です。
”制約のある中で考えて実践する”は社会で求められるスキルだと思います。大人になるにつれてキャリアの不安などから資格取得や、他人から見た自分を意識することで肩書きを気にする大人など”カタチ”に捕らわれてしまう人が多くいると感じます。しかし本当に大切なのは、それを自分色にどうスキルとして扱うことができるかです。またそのスキルを自分の良さや強みと認識し、より多くの人に影響を与えられるかが求められています。
ラグビーは日頃の考え方にも置き換えることができます。『ラグビー憲章こそが教科書であり、ラグビーは社会そのもの』です。辛いことも多いですが、楕円球のように前後左右どこに転がるかわからない人生。でも一歩づつ信念を持って限りなく前進する人にだけ、最高のご褒美があります。痛くても、危なくても、大変でも、傷ついても、今もラグビーをしたくなるのは、それ以上にラグビーの魅力にどっぷりハマっていて、これからはその魅力をみなさんと共有し、共に歩みたいと思っています。
◼ラグビーとの向き合い方
いまはラグビー選手と並行して、『おとラグ』をはじめJoyntとして様々の活動をしていますが、ラグビー以外に自分が割く時間は1-2割程度です。ラグビーに8割くらいの時間を割いています。1日のうち半日程度はラグビーの練習や試合等があり、練習が終わってからのリカバリーには3時間くらい必要です。更に映像を見て振り返り分析をして必要があればコーチともミーティングをして自分にフィードバックします。
SNS等で発信している情報だけで僕を見ると、ラグビーとそれ以外の活動をしている時間は、50:50くらいに見えているかもしれません。でも僕は何よりもラグビーが大好きで、ラグビーへの想いがすごく強いからこそ、プロラグビー選手になりました。僕はSNS等ではラグビーのことはあまり語りません。「チームのこと」「自分の状況」や「こんな努力をしています」とか、ラグビーをしている部分のうち8割くらいはあえて語っていません。
ラグビーのことに興味がある人が応援してくれていることは、分かっているつもりです。しかし自分が常に向き合っていることを赤裸々にシェアできないんです。目まぐるしく変わる感情の変化をシェアする余裕があまりなかったりします。悩みもあるし、楽しいこともご褒美もあります。
キヤノンイーグルスでは、日本代表の(田村)優さんがいて、今年日本代表に入った(小倉)順平さんがいて、僕がいます。監督の沢木(敬介)さんもスタンドオフ(SO)の経験があり、チームから求められることもキヤノンイーグルスは特に多いと思います。ラグビー選手として成長するには最高の環境です。学ぶことも大変多いですし、ラグビー選手としてどう表現するのかは、結果以外に正解はありません。
一生懸命に目の前の「今」と向き合い、「今」を大切にコツコツ取り組み、自分なりの正解を見つけられるよう課題への取り組みを止めないようにしています。信じ抜く力を持ち、後悔しないように1年1年をやっている状態です。SNS等ではありのままを全部出してはいないから、周囲から見えている自分と実際の自分とは、もしかしたらギャップがあるのではと思っています。
自分にとってラグビーをしているその時間が、今は何よりも大切です。必要以上にラグビーに時間を取って向き合う時間を作っています。そして残りの1-2割の時間で、選手が昼寝等の休息や友人•家族との食事やゲーム等の趣味に費やす時間を使って、Joyntの活動に伴う作業をしています。前職は会社員だったので(*1)ラグビーしながら仕事をすることが、自然と身についていましたし、社員選手は実際に業務をしている人も全国には多くいるので、社会人として特別なことはしていないと思っています。
でもプロ選手としてラグビーにフォーカスする場面、感情が揺さぶられ、特にメンタルがコントロールできないとき、苦しい状況から脱出できないときは結構きついです。そういうときはラグビーに全振りして、それ以外の作業をしないことも覚えました。一方で、Joyntの活動に割く時間は自分のペースで楽しむことにフォーカスしています。非日常的なインプットが多々あるように、学びの場を作り大切にすることで、ラグビーの悩みが整理されることも多いです。
◼引退したらみんなでわちゃわちゃラグビーがしたい
ラグビーを辞めて新たなスタートラインに立った僕を想像してみると、たぶん生き生きしてると思います。僕は既にラグビー選手として以外の場所でも活動しているのでアウトプットが多いですが、合わせてインプットも多くなるので野望が強いです。「もっとこんなことをやろう!」と思うことがたくさんあります。
『おとラグ』の違和感を埋めたい(*2)は今よりもむしろ引退後にあって、早くみんなとわちゃわちゃラグビーがしたいですね。引退後の自分の本業と家族以外の時間におとラグをやっているみんなみたいにラグビーをする時間があれば、めっちゃ幸せです。40歳くらいで考えると、新しく出会った人とお酒を飲みながらラグビー以外のことを話したり、夢を語ったりするのがいいじゃないですか。その中心にラグビーがあったらいちばんいい。僕も普通のラグビーが大好きな人なので。
(完)
◼ゲストスピーカー:喜連航平
「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」のラグビーチーム『横浜キヤノンイーグルス』に所属するプロラグビー選手。4歳からラグビーを始め、大阪桐蔭高等学校へ進学。3年次は主将を務め全国選抜大会優勝。卒業後は近畿大学へ進学し、4年次は主将を務め春季関西Aリーグ準優勝。関西学生代表にも選出。卒業後はNTTコミュニケーションズへ入社し、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(現・浦安D-Rocks)へ加入。2021年度は選手会長を務めた。2022年度よりプロラグビー選手へ転身し、横浜キヤノンイーグルスに加入。2022-2023シーズンはチーム最高位となる「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 3位」の成績を収めた。ラグビー選手としての活動以外に、一般社団法人Joynt 代表理事として「おとなラグビーコミュニティー(通称:おとラグ)」の運営や「スポーツを通じた企業向けチームビルディング研修等の実施」、また合わせて「アルツハイマー病基礎研究への支援活動」「レッドハリケーンズ大阪とのdeleteC大作戦によるコラボレーション企画による支援活動」等と様々な社会貢献活動を行い、可能性を広げる機会を多くの人へ提供すべく活動を行っている。
◼筆者のつぶやき
自身のプレーやチームについて多くを語らないのは「ラグビーに本気だから」と語りました。ここでは『おとラグ』で誰よりも楽しんで、参加者・スタッフ全員を全力で楽しませるJoynt代表である喜連さんとは全く違う、”プロラグビー選手”喜連航平の表情を見せてくれました。それは喜連選手の人生そのものに触れた瞬間でもありました。
喜連選手が人生をかけるラグビーの魅力は底が知れません。100人いたら100通りのラグビーの魅力があるのでしょう。『きっかけのチカラ』を通じて、もっと知りたいしもっと伝えたいと感じたインタビューでした。
喜連さん、ありがとうございました。
(*1)前職は会社員だったので前の所属チームであるNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(現・浦安D-Rocks)では、社員選手としてチームに所属しており、ラグビー選手と会社員の二足の草鞋を履いていた。
(*2)違和感を埋めたいきっかけのチカラ vol.1 参照。