「きっかけのチカラ」は、おとなラグビーコミュニティーに関わる方へ向けて、ラグビーの魅力を発信するコラムです。
本日のゲストスピーカーは一般社団法人Joynt 代表理事、おとなラグビーコミュニティー発起人の喜連航平さん。
インタビューは三部構成でお届けします。
(前編)は、喜連航平さんに『おとラグ』を始めるに至った想いを聞いた。
◼きっかけは『違和感』
「おとラグをスタートしたきっかけは、とある”違和感”からはじまりましたね。」
初めてファンと触れ合った際、ラグビーとの接点は観戦だけの人が思いのほか多くいることを知りました。
ラグビーとの接点が観戦だけであることが“違和感”に変わったのは、2019年のラグビーワールドカップ(日本大会)です。“ラグビーってこんなにも多くの人が関心を持って、スタジアムに人が溢れ、街にも集まるんだ!”っと肌で感じました。
また日本人は愛国心というか帰属意識のようなものが強いので、ワールドカップで”JAPAN”となった瞬間に、“こんなにもみんなが一つになって応援できるんだ”と実感しました。
ただ一方で、“みんなで一つになって応援すること、それこそがラグビーだ!”という雰囲気には、少し違和感がありました。
みんなが関心を持ってくれたのは嬉しいことですが、いざ蓋を開けると“ルールが難しい、分かりづらい”と言われていたり、観戦して欲しいと呼びかけているにも関わらず、試合はクリアに見える化されていないことで、観戦の魅力さえも伝わっていなかったり…
“迫力だけがラグビーの魅力”と言われたら、僕みたいな幼い頃からラグビーをして生きてきた者からすると、言葉では表せない”何か”ギャップを感じました。
観戦する多くの人はボールを持ってがむしゃらに走った経験がないし、チームのために人のためにタックルをした経験もない。チームの仲間と優勝の瞬間を分かち合った経験もないですし、家に帰って擦り傷や切り傷を風呂でヒリヒリと感じた経験も恐らくない。試合終わりに相手チームと肩を組んでお酒を交わす熱い時間を過ごしたこともないでしょう。
このようなラグビーを通した様々な経験がなくても、ラグビーには凄く関心があるっていう違和感。違和感というか「なんかちゃうぞ!?」みたいなズレている感覚がありました。
2019年W杯日本大会 NZ vs SA
◼ラグビーにおける「スタジアムの在り方」
数年前まではラグビーは企業スポーツであり、スタジアムは社員が集まる場所でもありました。普段は役職があってもラグビー場ではビールを持って「こんにちは!」と役職関係なく声を掛け合うような場所でした。
それが、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEが発足されてラグビーチームが地域に根づくチームを目指し、チームが社員だけでなくファンに目を向けるように変化しました。
ラグビーが「地域×会社×ファン」をつなぐツールになることが求められています。競技性のみに留まらず、より広く多くの影響を与えられるよう、ラグビーは人と人がつながるエンターテイメントだと信じています。
ファンの人たちは応援するためにスタジアムへ行きますが応援だけなら、わざわざスタジアムへ来なくてもTV観戦でいいですよね。このことをスタジアムへ来てくださる方へ聞いたことがあります。
「一緒に応援するみんなと会えるから、スタジアムで応援する」と言われていて、スタジアムの在り方にもつながりの観点から変化を感じました。
スタジアムで再会する シャイニー
◼伝えたいのは『ラグビー憲章』
その違和感に対して自分に何ができるのかを模索していた頃にstand.fm(インターネット配信ラジオ放送局)を開設し、メンバーシップコミュニティーを開きました。
そこで「なぜ、みんなラグビーを好きなのにプレーしないの?」と問いかけてみた所、自分でラグビーをやってみる発想がなかったり、やりたいけど一人じゃできない、やる場所がない、という話が出てきました。
確かにラグビーは子どもへの普及の観点が多く、普及しても競技を続ける受け皿になるような環境がなかったり、単発開催の体験会が多くあります。ですが大人になるとラグビーへの印象はコンタクトスポーツの印象が強く、実際にプレーするのは学生の頃に経験した人か、子どものスクールの草ラグビーに参加するお父さんくらいです。
みんなに問いかけながら、自分自身でもラグビーを通して伝えたいことを整理した際、自分が伝えたいことや体感して欲しいことは、選手と同じように怪我のリスクのある中でプレーすることではなく、これまで経験してきたラグビー憲章にあるような「品位、情熱、結束、規律、尊重」に含まれる”人のつながり”だと気がつきました。
多分みんなは、ラグビーを好きだからスタジアムに集まって応援しています。それなのに試合が終わった瞬間に“バイバイ”って言って別れたら、ラグビーの文化じゃなくて他のスポーツと変わらない…ラグビー選手は試合が終わったら、両チーム一緒にビールで乾杯を交わしてるじゃないですか。
僕はラグビー人として、観戦だけでは伝わらないラグビー憲章の魅力や、実際にプレーすることで結ばれる楕縁を体感して欲しいです。僕がラグビーを好きな理由の1つに”楕縁”があります。どこに転がるかわからない楕円球と同じように、ラグビーを通して沢山のご縁があり、今も続いています。そしてラグビーでつながった人は、「今」の自分の可能性を広げてくれる存在になり、未来をより良い方向に変化させるパワーがあることを、僕は知っています。
近畿大4年時に天理大と有志で開催したアフターマッチ
今でも現役でプレーする選手が沢山いますね。
「ラグビーは少年をいち早く大人にし、大人にいつまでも少年の心を抱かせる」
ジャン・ピエール・リーブ
(ラグビーフランス代表元キャプテン)
だから、観てるだけでも楽しいですが、やってみることで、大人だからこそ分かるラグビーの魅力があります。夢中になって少年の心を抱き、「今」の日常をより豊かにしてくれる何かに気づきます。そしてその先にあるラグビーにしかない素晴らしい魅力に触れて欲しいです。
そう思ったときに、「つながる、やってみる、もっと好きになる。」をキャッチフレーズにしました。
ファン同士、地域のつながり、社員同士のみではなく、選手と同じようにラグビーが好きな人全員がみんな仲良くなって欲しい。スタジアムでもせっかく同じ場所にいるのなら、共通点をラグビーという観戦だけではない魅力溢れるツールにできれば、まだ伝わりきらない魅力に触れ、関わる人の何かのきっかけになったり、前を向く活力になると信じています。
◼『おとなラグビーコミュニティー』の誕生
最初は「きーるの大人ラグビー体験•教室」でした。2022年7月末にトライアルをやりました。
ラグビー体験だと1回きりで、トライが出来たらゴールです。"体験"って目に見えて分かりやすいものですが、ラグビーを“体感”することで、ぬくもり的な人と人との関係性とか、目に見えないものを届けたかったんです。
よりつながりを感じやすく、愛着があるプロジェクトにしたいことから『おとなラグビーコミュニティー』に名称を変えました。
当初はラジオメンバーシップの特典として、メンバーの方に全国で運営等のサポートやロゴ制作、バッジ参加特典制作、SNS運用代行など、様々な方にご協力をいただき、大変感謝しております。運営でも楕縁とおとラグが目指す尊重と結束の姿があったと思います。
2022年7月末 トライアル 開催
(中編へ続く)
ゲストスピーカー:喜連 航平
「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」のラグビーチーム『横浜キヤノンイーグルス』に所属するプロラグビー選手。4歳からラグビーを始め、大阪桐蔭高等学校へ進学。3年次は主将を務め全国選抜大会優勝。卒業後は近畿大学へ進学し、4年次は主将を務め春季関西Aリーグ準優勝。関西学生代表にも選出。卒業後はNTTコミュニケーションズへ入社し、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(現・浦安D-Rocks)へ加入。2021年度は選手会長を務めた。2022年度よりプロラグビー選手へ転身し、横浜キヤノンイーグルスに加入。2022-2023シーズンはチーム最高位となる「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 3位」の成績を収めた。ラグビー選手としての活動以外に、一般社団法人Joynt 代表理事として「おとなラグビーコミュニティー(通称:おとラグ)」の運営や「スポーツを通じた企業向けチームビルディング研修等の実施」、また合わせて「アルツハイマー病基礎研究への支援活動」「レッドハリケーンズ大阪とのdeleteC大作戦によるコラボレーション企画による支援活動」等と様々な社会貢献活動を行い、可能性を広げる機会を多くの人へ提供すべく活動を行っている。
◼筆者のつぶやき
プレーは冷静、試合会場で愛想を振りまくタイプではありません。一方で自身のインターネットラジオでは饒舌に語ります。”優しくて賢くてクール”でも”溢れる想いがある人” 相反するような印象がありました。インタビューを始めると、相反する印象はどちらも喜連さんで、熱い想いを言語化できる方でした。話に引き込まれて、気が付くと2時間が経過していました。それは本来ならQA形式で書く予定だったインタビューのコラムが、一人語りの形式に変更したほどです。
この2時間を多くの方と共有したい、熱量を伝えたいと『きっかけのチカラ』では3回連載で喜連さんを特集します。