「きっかけのチカラ」は、おとなラグビーコミュニティーに関わる方へ向けて、ラグビーの魅力を発信するコラムです。
本日のゲストスピーカーは一般社団法人Joynt 代表、おとなラグビーコミュニティー発起人の喜連航平さん。
インタビューは三部構成でお届けします。
(前編)伝えたいのは「つながり」に続き、(中編) キラキラ輝く大人の「一歩」では、『おとラグ』の今とこれからを語りました。
◼ラグビーを楽しむ初級、そのものを感じる中級
おとラグには、初級と中級(*1)があります。
初級は単発のイベントになっていて、ボールに触ってもらってラグビーを短時間で体験してもらって楽しさを伝えます。今年も各地で繰り返し開催することで、”私も行ってみようかな”の輪を広げていきました。
中級はサークル活動で、毎週開催される活動に参加して、ゲーム形式でよりラグビーを楽しみます。サークル活動にして”毎週続けて参加する”プレッシャーをかける一方で、忙しい平日に頑張って来てくれたからこそ、絶対楽しい!と思えるような活動にしています。それは、サークル活動で描く理想像が“ラグビーの魅力そのもの”だからです。体感したら絶対にいい時間が過ごせます。そして僕自身も参加者と毎週会って一緒に楽しい時間を過ごしたいと思っています。
“できないことを失敗できる環境”をつくり、みんなで共感して、そして悔しがって、「みんなでやろうぜ」という空気感を大切にしています。乗り越えて成功したら、全員でハイタッチをしたり、拍手をしたり、みんなで喜びます。終わったら爽快感と程良い疲れがあって、食事やお酒を交わしながら仲間としてもっと深い話ができて。それは自分がラグビースクールでラグビーをしていた頃、何も考えずにボールを持って走って笑って、練習終わってからはみんなでガリガリ君を食べていた幸せな時間と重なります。
参加したメンバーの満足度は、100%でした。リタイアは誰一人いません。ラグビーそのものを楽しめているんだと思います。みんなで大変なことを乗り越えるから、仲間である実感があります。実際にメンバーがワールドカップ(フランス大会)に行って、現地のスタジアムで再会した写真が届きました。日本から離れたフランスで会うって、仲間として心を許してることだと思うので、メチャクチャ嬉しかったです。
中級向けビーチラグビーサークル2期生AMF
◼一歩踏み出してくれてありがとう
法人名の『Joynt』は楽しいこと”Joy”とつながる”Connect”を混ぜた造語です。僕の名前は「喜連」なんですが、まさに「喜びが連なる」です。喜びが連鎖するには“きっかけ”が必要です。そのための気づきやチャンスは、自分で一歩踏み出してくれた人にしかない最高のご褒美です。
“きっかけ”とは、『機会と可能性』だとJoyntでは定義しています。人の可能性は「今」無限大です。でも大人になると失敗が怖くなりますよね。ラグビー観戦は好きでも、ボールを触ってスポーツするのが苦手な人はたくさんいます。初めての挑戦は何であっても失敗することもありますよね。参加者アンケートで参加を迷った理由を聞くと、大半は年齢と運動することへの抵抗感でした。それでも勇気を出し一歩踏み出しておとラグに来たからこそ、共感し合える仲間と巡り合えるんです。自分から一歩踏み出した人へのご褒美って、とても大きいのです。たとえその一歩が失敗だったと感じたとしても、一歩踏み出したから分かる気づきに繋がります。僕はそれを「勇気ある一歩」と呼んでいて、「一歩踏みだしてくれてありがとう」って参加者によく伝えています。
おとラグで“きっかけ”を掴んだメンバーからは、「家族とも会社とも全く違う場所に、自分の居場所ができました」とか、控えめだった人が「初めて誰かと飲みに行く計画を立てられる人になりました」とか嬉しい話を聞きます。
おとラグが喜び連なる“きっかけ”になれているのだと感じています。そしてそのきっかけこそ“ラグビーの魅力そのもの”です。
◼”僕がいなくなったらおわり”じゃないもの
プロのアスリートとして、自分のプレーとは別の分野で収入を得るツールや場所があっていいと思っています。むしろ”喜ぶ人たちがいるから対価をいただく”という循環の一部に自分がいる経験が、アスリートには特に必要だと考えています。スポーツ界では、地域でのボランティアなど無償での活動が多い印象です。ですが、自ら考えて行動しその対価をいただく体験や非日常でのプレッシャーを感じる場所での経験は、アスリートにとって「今」を見つめ直すきっかけにもなります。「アスリートとは何か?」「社会人として求められていることは何か?」「何ができて自分が何をしたいのか?」、常に“今”にフォーカスしているアスリートにとって、選手としてのキャリアと社会人としてのキャリアを一本化することが、「セカンドキャリア」ではない一本道の「キャリア」人生を歩むきっかけになります。
おとラグは、ラグビー選手が「今」にフォーカスするための一つの手段にしたいです。僕だけが現場でファシリテートするのではなく、他の選手が主体的に表現できる場所にするために、今後はフランチャイズ化を考えています。すでに僕が現地に訪問しないおとラグが開催(*2)されています。
レッドハリケーンズ大阪で実施したdeleteC × おとラグ
メイン講師は栗原選手が担当しました。
現役選手だけでなく、引退した選手がラグビーの現場に携わる場所としても活用したいと考えています。それはファンや関係者から見ても、引退した選手と接点を持つことができる場所にもなりますし、引退した選手自身の非日常体験にもなります。
僕がいなくても… と思うのは、ラグビースクールの校長先生(*3)への憧れがあります。もう先生はいませんが、今もラグビースクールが続いていて、僕だけじゃなく日本代表やリーグワンで活躍する選手を数多く輩出してています。スクール時代の記憶は同期のスクール生の記憶の中にも、かけがえのない思い出として残っています。自分がいなくなっても何かメッセージがあるものを遺せる人は偉大だと思っていて、人生の目標の1つです。
ただ遺すために活動するのではなく、目的を持って行動しゴールを設定して、達成できたら潔くそのプロジェクトは終了します。それは目的が達成されることは素敵なことであり、持続する必要がないからです。おとラグのゴールは「全ての社会人チームがおとなラグビーコミュニティーを持つことで広がる “いつからでも誰とでもラグビーができる環境づくり”」と設定しています。
達成のためには自分だけの想いや活動ではなく、いろいろな人たちの想いや力が必要です。今年はおとラグから派生して、おとラグ参加者が自ら設立したサークルが、全国4か所(東北、関東、中部、関西)にできました。僕は法人(Joynt)として道具の提供等のサポートをしているだけで、運営や活動は各地のサークルがそれぞれ独立して行っています。この経験は、意志を持ち行動することで他者へ想いが伝わり生まれたご褒美です。自分がいなくても、遺せるもののスタートラインに立ったかな、と思います。
だって、「僕が死んだらなくなっちゃう」ってさみしいじゃないですか?
僕がいなくなった後でも「おとラグ」が当たり前の社会が広がっていたら嬉しいですね!
それはグループ、会社、コミュニティーなどの形ではなく”メッセージ”だと活動を通して気づきました。
大阪でおとラグきっかけで発起したビーチサークル「ORC」
(後編に続く)
◼ゲストスピーカー:喜連航平
「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」のラグビーチーム『横浜キヤノンイーグルス』に所属するプロラグビー選手。4歳からラグビーを始め、大阪桐蔭高等学校へ進学。3年次は主将を務め全国選抜大会優勝。卒業後は近畿大学へ進学し、4年次は主将を務め春季関西Aリーグ準優勝。関西学生代表にも選出。卒業後はNTTコミュニケーションズへ入社し、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(現・浦安D-Rocks)へ加入。2021年度は選手会長を務めた。2022年度よりプロラグビー選手へ転身し、横浜キヤノンイーグルスに加入。2022-2023シーズンはチーム最高位となる「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 3位」の成績を収めた。ラグビー選手としての活動以外に、一般社団法人Joynt 代表理事として「おとなラグビーコミュニティー(通称:おとラグ)」の運営や「スポーツを通じた企業向けチームビルディング研修等の実施」、また合わせて「アルツハイマー病基礎研究への支援活動」「レッドハリケーンズ大阪とのdeleteC大作戦によるコラボレーション企画による支援活動」等と様々な社会貢献活動を行い、可能性を広げる機会を多くの人へ提供すべく活動を行っている。
◼筆者のつぶやき
「ラグビーが好きなんです」「ラグビーが好きやから」インタビューの中で10回以上、ラグビーが好きだと話しました。ラグビーを仕事にしているくらいだから当然と言われるかもしれませんが、それをこれほど言葉にして伝えてくれるラグビーへの愛に圧倒されました。その愛を形にしたのが『おとラグ』です。喜連さんの熱量に吸い寄せらせた人たちは、最初は冷めていても時間を追うごとに熱量が上がり、気が付いたら知らない同士が仲間になっています。そのつながりが、誰かのきっかけとなり、喜びをつなげています。
つながったメンバーが喜連さんの熱をさらにパワーアップして各地域で喜びと楽しさを連させているとのこと。早くメンバーに会いたいです。そして、私もおとラグメンバーとつながりたくなってきました。
(*1)中級
2023年夏にサークル1期、2期に加え、ラグビー交流会を東京、大阪で計3回実施。”サークル”と称して平日夜のメンバーが変わらない連続企画でビーチラグビーを実施。ゲーム形式も取り入れて楽しみながらトレーニングし、一期の最後はビーチラグビーの大会に出場した。
(*2)僕が行かないおとラグを開催
「がんを直せる病気にする」プロジェクトであるdelete Cを通した寄付金を募るファンドレイジング活動として開催されたおとラグ。ラグビー界では浦安D-Rocks、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪が#deleteC大作戦に協力。https://www.delete-c.com/
(*3)ラグビースクールの校長先生
伊丹ラグビースクールの創始者である垂優先生。喜連がラグビーを始めたのは、幼稚園の先生だった垂先生のマジックがきっかけ。以来「大事なことは全部ラグビーから教わった」喜連にとっての恩人であり尊敬する人物。なお、同じマジックに魅せられて現・横浜キヤノンイーグルス キャプテンの梶村選手も同スクールに入り、喜連とは20年来の仲間である。