「きっかけのチカラ」は、おとなラグビーコミュニティーに関わる方へ向けて、ラグビーの魅力を発信するコラムです。本日のゲストスピーカーは東京山九フェニックス所属の岡田はるな選手。おとなラグビーコミュニティー、通称『おとラグ』のサポートプレーヤーとして参加されました。まだ決して多くはない女子ラグビー選手の第一人者として活躍する彼女のラグビーやチームへの想い、そして女子ラグビー選手としての現在地を聞きました。
■はるな選手は2023年9月に『おとラグ』にサポートプレーヤーとして参加されていますが、参加してみていかがでしたか。
一言で言うと、感動しました!所属しているチームが行うイベントには、私はこれまであまり多く参加できていませんでした。参加したイベントは、自分のことをよく知っているファンの方などが来られているものばかりでした。おとラグには急遽代打で参加したためか、私のことを知らない人が多くいました。しかし私のことを知らないにも関わらず、あんなにもキラキラした表情で話を聴いてくれて、その姿を見て参加している人たちと「同じ目線で一緒にラグビーを楽しんでいる感覚」がありました。それが何よりも嬉しかったです。
おとラグでサポートするはるな選手
■はるな選手がラグビーを始めたきっかけは何でしたか。
高校では陸上競技(砲丸投げ)をしていました。練習の空き時間に、ラグビー部が隣で練習しているのを見ながら真似してラグビーをしていたら、ラグビー部の顧問に「ラグビーができる奴がいる!」と思われたようです(笑)。その顧問とのご縁で、当時創部に向けて動いていた追手門学院大学女子ラグビー部からお声がけいただきました。元日本代表の大畑大介さん・後藤翔太さんが高校まで直接来てくださり、ラグビーの魅力を語ってくれました。
元々は高校を卒業したら海外留学をしようと思っていたのですが、ラグビーにも興味があっていつかはやってみたいと思っていました。母から「きっかけが来たのだから、やりたいならやったらいい!」と背中を押してもらい、決心しました。
陸上部時代のはるな選手(中央)
■追手門学院大学でラグビーを始めたんですね。
追手門学院大学女子ラグビー部は私が2期生で、同期9人のうち経験者と初心者が半分ずつくらいでした。初心者同士で励まし合って助け合いながら頑張りました。幼い頃から空手をやっていたことでコンタクトすることには慣れていて、タックルも好きでした。一方アタックは、攻め方やシステムを知らないためか当初は「怖い」という感覚がありました。今でも印象的な指導者は、翔太さん(当時の追手門学院大学 後藤翔太コーチ)です。ラグビーに対してストイックで、初心者の私にラグビーのすべてを教えてくれました。目標までの計算の仕方やゴールから逆算したアプローチの仕方に非常に長けている方で、「結果を出すにはここまでやらなきゃいけないんだ」というゴールまでの道筋の立て方を教えてもらいました。自分が翔太さんのようになれるかはわからないですが、「こんな人に出会ったことがない!」と思うほど個性と魅力に溢れ、刺激があって印象深いです。
実のところ私は、大学を卒業するタイミングでラグビーを辞めようと思っていました。ただ就職活動の時期にあたる3年生の時に、前十字靭帯を痛めて、全く就職活動ができなかったんです。その時に現在の所属チームである東京山九フェニックスが声をかけてくれました。「私を必要としてくれるチームがあるんだ」と気持ちを切り替え、入団を決めました。
追手門学院大学女子ラグビー部
■東京山九フェニックスはどんなチームですか。
大学生の時から対戦しているチームだったので元々馴染みがあって、入団したら楽しくてすぐにみんなと打ち解けました。チームメンバーはラグビーに全力で取り組みながら、お洒落も楽しむし何事にも活発でみんな個性的です。自分で積極的に発信する人が多くて、お互い切磋琢磨し相乗効果を生んでチームカルチャーが出来上がっています。(6年間在籍することができて)チームに大変感謝しています。今は自分がチームの中で、年齢を上から数えたほうが早いくらいになりました。これからは自分が経験してきたことをチームに還元したいと考えています。元々はあまり前に立つタイプではなくて、どちらかと言えば縁の下の力持ちとしてチームを支えるタイプでした。前に立つことから逃げていたことを分かっていた洋平さん(四宮洋平監督)からリーダー陣の役割を与えられて、チームのことを考えるきっかけをいただきました。
昨シーズン(2022シーズン)の太陽生命ウィメンズセブンズシリーズではゲームキャプテンを任されました。結果、念願の優勝をすることができ、自分から逃げずにチームと向き合い続けて良かったと思いましたし、これからはもっと自分の経験をチームに還元しなければいけないと気がつきました。特に還元したいと思っていることは、メンタル的なことです。若い時は経験が足りない分、試合で1つミスをするだけで気持ちが下がることが多々あります。当たり前のことですが、明るい言葉をかけたり、焦ったときに見落としがちなことを気持ちが切り替えられるように声をかけたりしています。
■女子ラグビーの選手はどんな環境でプレーをしているのでしょうか。
私は一般企業で働きながら、選手としてプレーしています。チームの練習は週に4回あって、平日に練習がある日は午前中は会社で働いて、午後2時から6時くらいまでラグビーの練習をしています。土曜日は仕事が休みですが、練習や試合があります。
私が勤めている会社は有り難いことに協力的で、仕事と選手との両立について理解してもらっています。しかし選手によってはかなり大変です。朝5時くらいから仕事をして、午前中のうちに他の人の1日分と同じ時間の仕事をすることで、午後の練習時間を確保している選手もいます。
女子ラグビーは一年を通じてあります。今(12月)は11月から始まっている15人制のシーズンの真っ只中です。最大で2月まであって終わると今度は4〜5月から夏にかけて7人制ラグビーの大会である「太陽生命ウィメンズセブンスシリーズ」があります。
東京山九フェニックスは他のチームと違って、夏季に1カ月程度のオフがあります。それを除けば大会のない期間はチームの海外遠征や日本代表の活動があって、1年中ラグビーをしている感じです。
村田金箔グループで働くはるな選手
■ここ数年で女子ラグビーを取り巻く環境が目まぐるしく変わっていますね。
私がラグビーを始めたのは、リオオリンピックで7人制ラグビーが採用されて、日本が出場すると決まった2年後でした。その頃は他競技からのスカウトやトライアウトで選手を獲得して、女子ラグビーの人口を増やしている時期でした。女子ラグビーの大会がある一方、各チームの人数がまだまだ少なくて合同チームにしてようやく人数が揃い大会ができるという状況でした。その当時の会場は、観客席のないグラウンドで開催しているような時代でした。
それが今では秩父宮ラグビー場やスタジアムで大会ができるようになり、入替戦ができるほどチーム数が増えました。一番変化を体感できる時期に、私は選手として女子ラグビーに関わっていると思っています。
ただ女子ラグビーは、世の中や会社に価値がまだ浸透していなくて、価値が伝わっている人や会社は限られています。大学でラグビーをして活躍していても、卒業したときに就職先がない学生がいます。それによってチーム選びも変わってきます。受け皿や女子ラグビーに理解がある会社を増やして、社会に出てからもラグビーを続けられる選手が今後はもっともっと増えて欲しいです。
■社会人になり6年目ですが、今感じるラグビーの魅力は何ですか。
高校までは空手や陸上競技といった個人競技しかやったことがありませんでした。ラグビーを始めてから、チームスポーツの特徴である「1つのゴールにみんなで向かうこと」を実感して新鮮でしたし魅力を感じました。トライやボールを取り返したときには、チーム全員で喜ぶような「みんなが繋がっている感覚」が好きです。選手だけでなく、スタッフや観客もみんな繋がっていることがラグビーだな!と感じます。
あとは人と人が自分の体一つでコンタクトするところが魅力です。空手をやっていたので体を当てることには慣れていましたが、団体競技のなかで自分の体一つで相手とぶつかり勝負するスポーツはラグビーだけだと思っています。
■座右の銘は。
「為せば成る」です。
私は幼いころから空手を10年間やってきました。小学校6年生で身長が160センチメートルあったので、戦う相手は他の先生や成人のお父さんようなの大人の人が多かったんです。大人相手なので、練習でも痛いですし逃げ腰になっていることが多くありました。
その時に空手の先生から諭された言葉が「為せば成る」です。
この言葉をもらってからは「やってみなければ分からない!」と気持ちを切り替えることができ、良いキックができるようになった経験があります。この成功体験があって「何事もやってみなければ分からない」「やり始める前に結果は決まってない」という私のモチベーションになりました。
■「開き直り×きっかけ=岡田はるな」ですね!
そうですね!いいのかなあ私(笑)。
■ゲストスピーカー:岡田はるな
1995年生まれ。愛知県出身。渋谷区で活動する女子ラグビーチーム東京山九フェニックスに所属するラグビー選手。15人制ラグビーでのポジションはロック、7人制ではフォワード。幼少から空手、中高では陸上部に所属し砲丸投げ競技選手として活躍。ラグビーとの出会いは高校で陸上部の練習合間にラグビーをして遊んでいたときにラグビー部顧問の目に止まり、追手門学院大学で女子ラグビー部への入部を勧められる。追手門学院大学での7人制ラグビーを経て、現在は東京山九フェニックスで7人制、15人制ラグビーで活躍する。2022年の女子7人制ラグビーの大会「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」では主将を努め、チームを年間総合優勝に導くとともに自身は年間MVPに輝いた。
■筆者のつぶやき
女子ラグビー日本代表。強い女性を想像したら、Zoomには眼鏡をかけたとてもかわいらしい女性が登場してくれました。意思のある言葉と弾けるような笑い声にすっかり魅了されました。そのはるなさんのきっかけのチカラは「為せば成る」。空手、陸上、ラグビーと全く異なる競技を渡り歩く彼女のアスリート人生を自身の力で切り開いてきたことを裏付ける言葉でした。その言葉を語るはるなさんからは「自分の力でやってきた」自信も伝わってきました。この先の人生でであう困難にも歯を食いしばりながら、でも笑いながら歩んでいく姿が想像できました。彼女の人生から目が離せません。